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【心理学で解き明かす】もし人生をやり直せたら、私たちは本当に幸せになれるのか?

思考実験シリーズ
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こんにちは!最近懐古厨の気を感じ、恐れているmaroです。

「あの時、別の選択をしていれば…」
「もう一度高校時代から人生をやり直せたら、もっと最高の人生が待っているのに」

誰しも一度は、そんな風に過去の選択を悔やみ、「人生のやり直し」を妄想したことがあるのではないでしょうか。
私もできるのであれば中学生の頃に戻って、きちんと部活や勉強に打ち込みたいなと思っています。

アニメや漫画、小説でもタイムリープや転生モノのストーリーは人気ですよね。

しかし、ここで一つの心理学的な疑問が浮かびます。
「もし本当に過去に戻り、人生を最初から、あるいは特定の時点からやり直すことができたとして、私たちは今よりも『幸せ』になれるのでしょうか?」

今回はこの問いについて、心理学のさまざまな研究や法則を基に、科学的な視点から深掘りしていきます。結論から言うと、心理学が導き出す答えは、私たちの幻想を少し裏切るものかもしれません。

心理学から見る「人生やり直し」の落とし穴

早速結論なのですが、もし人生をやり直せたとしても、私たちが期待するほど幸福度が上がらない可能性が高いです。3つの心理学的視点をご紹介します。

幸福の「ヘドニック・トレッドミル(幸福の順応)」

心理学者のフィリップ・ブリックマンらの研究で有名な「ヘドニック・トレッドミル(快楽の足踏み器)現象」というものがあります。これは、人間に大きな幸運(宝くじの当選など)や、逆に不幸な出来事が起きても、時間の経過とともに感情は一定の「基準値」に戻ってしまうという心理作用です。

もし過去に戻って「もっと偏差値の高い大学に入る」「大企業に就職する」といったリベンジを果たしたとしても、その瞬間の喜びは長くは続きません。
新しい環境にすぐ慣れてしまい、また別の不満や新たな課題(人間関係の悩みやプレッシャーなど)に直面し、結局は今と同じくらいの幸福度にとどまる可能性が高いのです。

ちょっと一息コラム:フィリップ・ブリックマンらの研究

ヘドニック・トレッドミル現象を証明したブリックマンらの実験内容は、私たちの直感を大きく裏切る非常にユニークなものでした。

彼らは、「宝くじで高額当選した人(人生の一大幸運を迎えた人)」と、「不慮の事故で半身不随になってしまった人(人生の一大不幸を迎えた人)」、そして「何事もなく普通に暮らす一般の人」の幸福度を追跡調査しました。

調査の結果、驚くべき事実が明らかになりました。 大金を手にした宝くじ当選者たちの幸福度は、当選直後の絶頂期が過ぎると、なんと一般の人たちと変わらないレベルまで戻ってしまっていたのです。それどころか、大金を得た強い刺激に脳が慣れてしまったせいで、「友達とお喋りする」「美味しいご飯を食べる」といった日常のささやかな出来事から得られる喜びが、以前よりも低下してしまうという副作用まで見られました。

一方、事故に遭ってしまった人たちも、数ヶ月から数年が経つと、彼らが主観的に感じる幸福度は、私たちが想像するような絶望のどん底ではなく、一般の人の平均値に近いところまで回復していました。

この研究が教えてくれるのは、私たちがもし過去に戻って「一発逆転の大成功ルート」を選び直したとしても、私たちの脳はすぐにその環境を「当たり前」のものとして受け入れてしまうということです。そして、また新しい環境の中で別の不満や悩みを探し始めてしまいます。環境や選択を変えることだけでは、私たちが夢見るような「永続的な幸せ」を手に入れることはできないということを説明する実験となりました。

記憶のバイアス「バラ色の回顧」

私たちが「あの頃は良かった」「あの選択さえ間違えなければ」と過去を美化してしまうのは、心理学で「バラ色の回顧(Rosy Retrospection)」と呼ばれる認知バイアスが原因です。

人間は、過去のネガティブな記憶を薄れさせ、ポジティブな記憶を強調して残す傾向があります。
そのため、「やり直した過去の人生」を想像するとき、私たちは無意識に「良いことばかりが起きる都合のいい未来」を思い描いてしまいます。

しかし、実際にやり直してみれば、当時と変わらない泥臭い悩みや、新しい選択による別のリスクに直面することになります。

過去の記憶を美化してしまう現象については、以下の記事で詳しく紹介しています。

「選択のパラドックス」による後悔の増加

心理学者バリー・シュワルツの著書『選択のパラドックス』では、選択肢が多すぎると人はかえって不幸になることが示されています。
「人生をやり直せる」ということは、選択の自由度が無限に広がることを意味します。
「今回はAを選んだけど、本当にこれで良かったのか? Bのルートの方がもっと幸せだったのでは?」と、やり直しの効く世界だからこそ、自分の選択に対する不安や後悔が倍増してしまう危険性があるのです。

思考実験と「もしも」の体験談

ここで、一つの思考実験と、日々の生活で私たちが経験する具体的なエピソードを交えて、この問題についてさらに考えてみましょう。

思考実験:『人生のルート選択ゲーム』

想像してみてください。
あなたの前に、これまでの人生の分岐点がすべて記録されたゲームのセーブデータがあるとします。 あなたは「高校受験の直前」のデータを選び、当時あきらめた別の進路を選択しました。新しいルートでは、当時付き合えなかった憧れの人と結ばれ、希望通りの職業に就くことができました。

しかし、その代償として、「元の人生で出会えたはずの大切な友人」や「今、あなたの支えになっている趣味」、そして「苦労したからこそ得られた現在の強み」はすべて消え去ってしまいます。

別のルートで得た幸せと、元のルートで失った大切なもの。これらを天秤にかけたとき、私たちは本当に「新しい人生の方が100% 幸せだ」と言い切れるでしょうか。

人によって回答は異なるかと思いますが、冒頭の希望通り、私が本当に中学時代に再度戻って別の選択をしたとします。
それによって、今の高校・大学での出会いが全てなくなってしまうと考えると「100%幸せだ!」と言い切るのはすこし難しいです。

日常の具体例:隣の芝生が青く見える心理

これは私たちの日常でもよく起こります。
例えば、仕事で大きなプロジェクトを任されてプレッシャーに押しつぶされそうなとき、「もしあの時、別の地味だけど安定した仕事を選んでいたら、もっと気楽に幸せに暮らせていたのに」と考えたりします。

しかし、もしその「気楽な仕事」を選んでいたとしたら、今度は「もっと大きな仕事に挑戦して、自分の力を試す人生を送りたかった」と、今の自分を羨むかもしれません。

心理学者ダニエル・ギルバートの著書『幸せはいつもちょっと先にある(Stumbling on Happiness)』では、人間は「自分が選ばなかった選択肢のメリット」と「自分が選んだ選択肢のデメリット」を比較してしまうと述べられています。

頭の中のシミュレーションだけで現実は見えてこないということかもしれません。

「やり直せない」からこそ、私たちは幸せになれる

心理学の知見を総合すると、私たちが真に幸せになるための鍵は「人生をやり直すこと」ではなく、むしろ「人生はやり直せないと受け入れること」にあります。

心理的免疫システムと「現状肯定」

人間には、変えられない現実に対して、脳が自動的にその良さを見出そうとする「心理的免疫システム」が備わっています。
心理学者ダニエル・ギルバートらの実験では、後から変更が不可能な選択(返品できない買い物の条件など)をしたときの方が、後から変更可能な選択をしたときよりも、自分の選択に対する満足度が大幅に高くなることが分かっています。

「もう後戻りはできない」と覚悟を決めたとき、私たちの脳は「今の人生の素晴らしい点」を一生懸命に探し始め、結果として幸福度が高まるのです。

逆に「やり直せる」という余地を残してしまうと、脳はいつまでも現在の人生に満足することができません。

まとめ:今ここにある「ユニークな人生」を愛するために

もし人生をやり直せたとしても、ヘドニック・トレッドミルや選択のパラドックスによって、私たちが「永遠の幸福」を手に入れることは難しいでしょう。
新しい人生には、また新しい種類の悩みや葛藤が必ずついて回るからです。

私たちが過去を振り返って「やり直したい」と痛烈に思うとき、本当に求めているのは過去の改変ではなく、「現在の選択に対する自信」や「現状への納得感」ではないでしょうか。

心理学の視点から言える究極のメッセージは、「不完全に見える今の人生こそが、数々の偶然と選択が織りなした、あなただけの最も愛おしいルートである」ということです。

過去の失敗や選ばなかった道に囚われるのをやめ、「今、ここ」から始まる未来の選択にエネルギーを注ぐこと。それこそが、心理学が教える、私たちが本当に幸せになるための唯一の、そして最も確実な方法かもしれません。

では、次回の記事でお会いしましょう!


参考文献】

  • バリー・シュワルツ 『選択のパラドックス』(集英社)
  • ダニエル・ギルバート 『幸せはいつもちょっと先にある』(早川書房)
  • Brickman, P., Coates, D., & Janoff-Bulman, R. (1978). “Lottery winners and accident victims: Is happiness relative?”(ヘドニック・トレッドミルの元論文)

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