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災害時の心理学・メンタル対処法4選|正常性バイアスと被災後の心のケア

解説記事
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2026年7月28日、熊本を震源地とする大きな地震がありましたね。
最近、地震が非常に増えてきているような感じがします。

大きな揺れがきたとき、最初に何を思ったか、覚えていますか。

「うわ、地震だ」の次に出てくる言葉って、たぶん多くの人がこう思ったのではないでしょうか。

「……いや、たぶん大したことないでしょ」

これ、性格の問題でも、防災意識が低いからでもありません。
人間の脳にもともと組み込まれた機能が、そう思わせています。

しかも厄介なことに、この機能は普段の生活ではめちゃくちゃ役に立っているのに、災害のときだけ牙を剥いてきます。

今回は「災害のときに知っておくと、自分と身近な人を守れる心理学」を4つご紹介します!

正常性バイアスとは?「まだ大丈夫」で逃げ遅れる心理

1つ目であり、最も重要と言えるのが「正常性バイアス」です。

正常性バイアスとは、予期しない事態が起きたときに「これはきっと大したことではない」と過小評価してしまう心の働きのこと。少々の異常を「正常の範囲」として処理することで、心の安定を保つメカニズムです。

ニュースで事故を見るたびにパニックになっていたら生活が回りませんから日常では優秀な機能です。

しかし災害時には、これが「逃げ遅れ」の最大の理由になります。
非常ベルが鳴っても「点検でしょ」、警報が出ても「うちは今まで大丈夫だったし」とかですね。

同調バイアスとの相乗効果が、集団の避難を遅らせる

2つ目は「同調バイアス」です。

正常性バイアスとセットで覚えておきたいバイアスの1つで、
「周りが動いていないと自分も動かない」という心理です。

この2つが組み合わさると最悪で、「自分も大丈夫と思っている × 周りも動いていない」という状態が固定化されて、集団まるごと避難が遅れます。

全員が全員、他人の様子をうかがって「まだ平気そうだな」と判断材料にしていまいます。
誰も正解を持っていないのにです・・・。

正常性バイアスの対策は「平時に行動ルールを決めておく」

対策はシンプルで、「バイアスを克服する」のではなく「先に決めておく」こと。

「震度5以上なら、周りがどうであれ玄関を開けて靴を履く」みたいに、判断を伴わない行動ルールを平時に作っておく。判断しようとするから、バイアスが入り込む余地が生まれるわけです。

まと、率先して動く人が一人いると集団は動きます。
「大げさかな」と思いながら最初に立ち上がる人になる。それがより効果的です。

災害後に眠れない・涙が出るのは異常?「正常な反応」という考え方

3つ目の紹介の前に1つ。

災害のあと、眠れない、揺れていないのに揺れている気がする、涙が止まらない、逆に何も感じない、些細なことでイライラするといった反応がでることがあります。

こういう反応が出ると「自分は弱いのかも」と思ってしまいがちですが、これは異常な出来事に対する正常な反応です。心が壊れたのではなく、心がちゃんと危機に反応しています。

多くの人は自然に回復する(レジリエンス)

そしてこの現象に対して、研究が一貫して示しているのは、多くの人は時間とともに自然に回復するということです。

Bonannoらの災害研究のレビューでは、被災した人のかなりの割合が一過性の苦痛を経験するだけで、健康な状態を保つ「レジリエンス」の軌跡をたどると報告されています。

9.11のあとにニューヨークで予測された「大規模なメンタルヘルス危機」も、実際には起きませんでした。

回復しにくい人のリスク要因

ただし「みんな大丈夫」ではありません。

同じ研究群は、慢性的な症状が続く人が一定数いること、そして被害の程度が重い人、以前から精神的な問題を抱えていた人、支援のつながりが弱い・失われた人でリスクが高まることも示しています。

つまり大事なのは、「弱いから引きずるわけじゃない」と「引きずる人は確実にいるので支援が要る」を、両方セットで知っておくことです。

被災後の回復を支える5つの要素 「Hobfollの原則」

じゃあ何が回復を助けるのか。ここで3つ目の登場です。

Hobfollら世界中の専門家パネルが2007年にまとめた、災害・大規模トラウマ後の支援における5つの基本原則です。

  1. 安全の感覚 — 実際の安全と、「もう大丈夫」と感じられること
  2. 落ち着き — 過覚醒を鎮める。呼吸、睡眠、情報の遮断も含む
  3. 自己効力感・共同体効力感 — 「自分たちで何とかできる」感覚。小さな役割でいい
  4. つながり — 人とのつながり。これは繰り返し効果が確認されています
  5. 希望 — 先の見通しが立つこと

これは、支援者向けの原則として作られたものですが、自分自身のケアのチェックリストとしても活用できます

「今、自分はこの5つのうちどれが欠けているか?」と考えると、やるべきことが見えてきます。

災害時にやってはいけない心のケア 「話させる」は逆効果

これはぜひ広まってほしい話になります。

かつて「トラウマ体験は早いうちに言語化して吐き出させたほうがいい」と考えられ、心理的デブリーフィングが広く行われていました。

ところがCochraneのレビューで検証したところ、単発のデブリーフィングはPTSDの発症を防がず、苦痛も減らすことはありませんでした。

それどころか症状を悪化させる可能性が示唆され、WHOも推奨しないという立場を示しています。

善意で「つらかったことを全部話してごらん」と促すのは、逆効果になりうるということです。

心理的応急処置(PFA)の3原則「見る・聞く・つなぐ」

じゃあどうするか。
ここで4つ目、WHOの心理的応急処置(PFA)が示す原則である「見る・聞く・つなぐ」です。

  • 見る:安全か、緊急の医療が必要な状態か、生活が保てているかを確認する
  • 聞く:無理に聞き出さない。相手が話したいことを、そばで聞く
  • つなぐ:具体的なニーズ(水、情報、家族との連絡、医療)と支援を結びつける

ポイントは、PFAが専門家だけのものではないこと。特別な資格がなくても実践できる設計になっています。「深く探らない」「押し付けない」が明確に”してはいけないこと”に入っているのも、覚えておく価値があります。

つまり支援の基本は、心を掘ることではなく、生活を立て直すこと。「大丈夫?」より「水ある?」のほうが、はるかにPFA的なんですね。

【事例】令和8年熊本地震を、災害心理学の4つの視点で読み解く

先日、熊本で大きな地震がありました。2026年7月28日、マグニチュード7.1、宇城市と氷川町で最大震度7。気象庁は「令和8年熊本地震」と命名しています。熊本県内で震度7が観測されたのは、2016年の熊本地震以来10年3か月ぶりでした。

この状況を、さっきの4つに当てはめてみます。

①正常性バイアス:この地域は2016年を経験しています。経験は備えになる一方で、「あのときはこうだったから今回も」という基準にもなってしまう。前回との比較で判断してしまうことのリスクは、まさにここにあります。津波注意報が出た地域では、この数分の判断が命に直結しました。

②正常な反応:発生から2週間以上たった8月上旬の時点で、避難者は6,000人規模、避難所は100か所以上、断水も数万戸が残っていました。この段階が実は心理的にはしんどいです。急性期の緊張が解けたころに、疲労と先の見えなさがどっと出てきます。「もう地震から時間がたったのに、なんで自分はこんなに調子が悪いんだろう」と思ってしまう時期です。

③5つの要素:長引く避難生活で削られるのは、まさに「落ち着き(睡眠)」「効力感(何もできない)」「希望(見通しが立たない)」です。しかも今回は夏。熱中症やエコノミークラス症候群への注意が呼びかけられ、身体的な消耗が心理的な消耗と直結します。断水の解消見通しや仮設住宅の情報といった「先の見通しに関する具体的な情報」は、それ自体がケアとして機能します。

④支援のかたち:遠くにいる私たちができるのは、心情を聞き出すことではありません。信頼できる情報を広める、募金する、そして行政や支援団体が発信する具体的なニーズに沿って動くこと。「頑張ってください」と送る前に、その人が今いちばん困っていそうな実務を一つ肩代わりできないか、を考えることが必要です。

被災地から離れている人・支援する側の心のケアも忘れずに

そしてもう一つ。
支援する側・報道を見続ける側のケアも忘れないでください。

被災地から離れていても、悲惨な映像を長時間見続けることは確実に心を削ります。情報を追うのをやめる時間をつくるのは、無責任ではなく必要な自己管理です。

まとめ 災害時に知っておきたい心理学のポイント5つ

心理学を踏まえたポイントについて5つにまとめました。

  • 災害時、脳は「大したことない」と言ってくる。判断ではなく、事前に決めたルールで動く
  • 災害後の不調は、正常な反応。多くの人は自然に回復するが、回復しにくい人も確実にいる
  • 回復を支えるのは、安全・落ち着き・効力感・つながり・希望の5つ。自分の点検表にもなる
  • 無理に語らせるのは逆効果。「見る・聞く・つなぐ」でいい
  • 支援は心を掘ることではなく、生活を立て直すこと

正常性バイアスは、克服すべき弱さではありません。誰にでもあるものとして前提に組み込んで、迂回するものです。

「知っている」と「対策している」の間には結構な距離があるので、この記事を読んだ今日のうちに、家族と一つだけルールを決めてみてください。

今後、南海トラフや首都直下型地震などが高い確率で発生するとの予想があります。
「もしも」の時のため、災害対策の1つとしてこの「心構え」を一緒にしていきましょう!

では次の記事でお会いしましょう!


【関連・参考】

  • Hobfoll, S. E., et al. (2007). Five essential elements of immediate and mid-term mass trauma intervention: Empirical evidence. Psychiatry, 70(4), 283–315.
  • Rose, S., Bisson, J., Churchill, R., & Wessely, S. (2002). Psychological debriefing for preventing post traumatic stress disorder (PTSD). Cochrane Database of Systematic Reviews, (2), CD000560.
  • Norris, F. H., et al. (2002). 60,000 disaster victims speak: Part I. An empirical review of the empirical literature, 1981–2001. Psychiatry, 65(3), 207–239.
  • Bonanno, G. A., Brewin, C. R., Kaniasty, K., & La Greca, A. M. (2010). Weighing the costs of disaster: Consequences, risks, and resilience in individuals, families, and communities. Psychological Science in the Public Interest, 11(1), 1–49.
  • World Health Organization, War Trauma Foundation, & World Vision International (2011). Psychological First Aid: Guide for Field Workers.(日本語版:国立精神・神経医療研究センター、ケア・宮城、プラン・ジャパン訳, 2012)
  • 兵庫県こころのケアセンター『サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き 第2版』日本語版
  • 広瀬弘忠『人はなぜ逃げおくれるのか──災害の心理学』集英社新書
  • 気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」/熊本県「令和8年熊本地震に関する情報」

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